大阪高等裁判所 平成2年(う)849号 判決 1991年2月07日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年六月に処する。
この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人曽我乙彦作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。
第一控訴趣意中、事実誤認の主張について
論旨は、被害者の傷害の程度について、原判決は、「Aに加療約五か月間を要する頚部挫傷等の傷害を」「B子(当時八〇歳)に加療約四か月間を要する左膝挫創等の傷害を」「C子(当時五二歳)に加療約五か月間を要する肋骨骨折等の傷害を」それぞれ負わせたものであると認定しているが、被害者B子を除く被害者らはいわゆるむち打ち症であることなどから、Aについて二週間位の加療で治癒する軽度の傷害、B子について加療約一か月程度の傷害、C子について二週間位の加療で治癒する軽度の傷害と解するのが相当であると主張し、この点について判決に影響を及ぼすべきことが明らかな事実誤認があると、いうので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せて検討するに、原判決挙示の関係各証拠によれば、前記傷害の程度の点をも含め原判示事実を優に認定でき、原判決に事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。
第二控訴趣意中、量刑不当の主張について
論旨は、要するに、原判決の量刑不当を主張し、被告人に対し刑の執行を猶予されたい、というので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せ検討するに、本件は、無免許運転、業務上過失傷害、轢き逃げの事案であるところ、各罪質、態様、結果の重大性、殊に過失の態様は無謀運転に起因する危険かつ悪質なものであり、被害者三名に原判示認定の各傷害を負わせながら、その場から逃走していること、被告人にはこれまでにも道路交通法違反により罰金刑に処せられた前科があるなど遵法精神の欠如が窺われることなどの諸点にかんがみると、被告人の刑責は軽視できないから、原審時に被害者との間で物的損害について示談が成立していたこと、被告人の反省の態度、年齢、家庭事情など所論指摘の諸事情を十分に斟酌しても、被告人を懲役一〇月の実刑に処した原判決の量刑は、その判決言い渡しの時点を基準とする限り重すぎるとは考えられない。しかしながら、当審における事実取調の結果によると、原判決後の事情として、被告人が被害者らに会って謝罪し、被害者らから嘆願書を得ていること、今後も人的損害について任意保険からの補償を期待できることは勿論であるが、被告人自身から詫料として五〇万円を支払うなど誠意を示していることなどの事実が認められるので、これに前記の被告人にとって有利な諸事情を併せて考えてみると、現時点においても被告人に対し原判決の量刑をそのまま維持するのはいささか酷にすぎ、これを破棄しなければ正義に反するものと認められる。
よって、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書によりさらに判決することとし、原判決認定の罪となるべき事実にその挙示する各法条(刑訴法一八一条一項但書は除く。)のほかに刑法二五条一項、刑訴法一八一条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部功 山本哲一 裁判長裁判官右川亮平は退官のため署名押印することができない。裁判官 阿部功)